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地域の救急医療を支え「最後まで笑顔で生きられる街」を目指す いおうじ応急クリニック院長 良雪 雅先生【TOP’S RERAY】

2023年08月04日(金) 冊子掲載
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今回の「TOP’S RELAY 〜三重の未来を担う経営者に聞く〜」のゲストは、前回のゲスト火の谷温泉「美杉リゾート」四代目社長の中川雄貴さんからのご紹介で、松阪市で「最期まで笑顔で生きられる街を創る」という理念のもと、祝日や夜間帯の診療を行う外来診療、訪問診療、訪問看護ステーション等を行う「いおうじ応急クリニック」院長良雪雅先生です。

松阪市は対人口比の救急車出動件数が多く、2014年には中都市の中で最も悪い数字を記録しました。その際、当時の松阪市長からの依頼で対応にあたったのが良雪先生です。休日夜間応急診療に医師派遣など取り組むも、次第に協力してくれる医師も疲弊し限界を感じるようになります。

そこで松阪市から提案されたのが、市と連携して救急に特化したクリニックを開設することでした。

「いおうじ応急クリニック」を開院した2015年当時、良雪先生は若干30歳。救急に特化した医院は珍しく、国内3番目の開院だったそうです。

▲いおうじ応急クリニック院長良雪雅先生

「自ら動く」「自ら学ぶ」市民の力を借りることが大切

様々な苦労はあったものの「いおうじ応急クリニック」開業から2年、松阪市で夜間や休日に大きな病院へ駆け込む救急患者数は1割減り、患者からも医療関係者からも感謝され、地域になくてはならない存在となっていました。

にも拘らず、市長の交代に伴い市の方針が変更になり、クリニック継続に必要な行政の委託金が打ち切られそうに…。

地域の市民に相談すると、クリニックの存続を求める市民により、約8,000人の署名と50もの団体の連名で要望書が市に提出され市側が委託金の打ち切りを撤回、危機を脱することができました。

この時、市民自らが必要な医療を考えて行動してくれたことが地域の財産であり、『社会的に意義のある活動』を行い市民の力を借りることが重要だと感じたと言います。

コンビニ受診という言葉があります。これは、一般的に外来診療をやっていない休日や夜間に緊急性のない軽症患者が、病院の救急外来を自己都合で受診する行為を指します。ですが、実際に救急外来を訪れる殆どの人は、自己都合で気軽に救急外来を利用しているのではなく、具合が悪くなった我が子を心配したお母さんが、様子を見ていていいのか不安になり子供を抱いて駆け込むなどというケースが多かったのだそう。

そこで、市民に向けて、救急車を呼ぶべきか見守っていていいかを学ぶ機会を設けました。この取り組みは、子育て中のお母さんたちに喜ばれているそうです。

理念と価値観を元に行動

その後、減少しつつあった救急車の利用件数が、再び上昇します。高齢者増加に伴い在宅診療が増え、かかりつけ医と連絡が取れない時間帯に対応してくれるところがない、というのも一つの原因でした。

そこで、クリニックでも訪問診療や訪問介護ステーションの事業をスタート。

専門的な医学的・介護的サポートをすることはもちろんですが、「病気を治す」ことと同等に「心に寄り添い幸福でいられること」を念頭において、患者やその家族の「幸せなご自宅での生活」を創ることを大切にされています。

薬では治らない人たちもいます。 こんなことがありました。旦那さんを介護しながら畑で野菜を作るのを生きがいにしていたご年配の奥さんがいました。ところが、ある時猪に畑を荒らされたことで鬱を発症。抗うつ剤や睡眠薬を処方されてもちっとも良くなりません。表面的な対症療法ではなく「生きる気力」を支えることの大切さを痛感します。

1年後、猟師となり銃を構える良雪先生の姿がありました。いまでもシーズンになると獣害駆除の依頼が入ります。

仕留めた鹿や猪は解体して大切にいただきます。撃つのは年間10頭ほど、それ以上は冷凍庫で保存できないから。命を無駄にはしない、そんなスタンスが窺えます。


 ▲猟の様子

病んでいる人が多い、病んでいる地域は良くはならない。これが、人と人のつながりを作る新しい事業の構想につながりました。いおうじ応急クリニックは、2023年12月に新施設に移転する計画があります。そこには子ども食堂があったり、暮らしの相談ができたり、動物と触れ合うことができたりと、暮らしを支えるサービスだけではなく、住民同士の共生をサポートする施設になる予定なのだと今後の展望を語ってくださいました。

これまで「自分のやりたいこと」というよりも地域のニーズに焦点を当て、やれることをやろうとしてきたと言います。

大切なのは、これがあったらいいのにという“WANTS”ではなく、地域の人に求められている“NEEDS”に応えるということ。それがビジネスチャンスにも繋がります。そして、巻き込まれる周りが大変なので決してノリで動いたりはしません。猟師になるのも1年考えてから行動に移したそうです。行動は全て「最期まで笑顔で生きられる街を創る」という理念、そして「一緒に働く仲間を第一に思いやり、笑顔にすることを心がける」「プロとして患者の安全・安心を守るべく研鑽を持続する」「正しさよりも、患者がその人らしく生きられることを支える」「地域との関わりの一つ一つを大切にする」という4つの価値観に基づいています。

伸びる組織とは

お話を伺い、ここまでを8年で⁈とそのスピード感に驚きます。結果を出すと周りからの期待がプレッシャーにならないのでしょうか?

「本人はボロボロですよ」と良雪先生。「開院時はやる気に溢れていたかもしれませんが、5年も経つと…。スピード感は意識したことがなく、求められるから動いているというスタンスです。その中でうまくいくのは2割程度、8割はうまくいっていないのでプレッシャーはありません。一般的な企業は、うまくいくのが1・5割で8・5割はうまく行かない…その程度の差です」

先生は続けます。「この、『8・5割うまく行かなかった』ということを認められる企業は伸び、そうでない企業は衰退していくのかもしれません。行政も同様で、『うまくいっていることにしよう』『コロナは終わったことにしよう』などと事実を直視しないことが危険。『事実を隠蔽しないこと』が大切だと思っています。求められて行動し、結果が出るまでやり続ける。但し、期待されても働く人への負荷が大きいならしない。一緒に働く仲間を笑顔にすることを第一に考えて、降って湧いた話はスタッフが荒れるしダメージも大きいから手を出しません」とのことでした。 意識の高い医療集団が目指すもの クリニックのホームページを拝見すると、スタッフのプロ意識の高さ、仕事への誇りが伺えます。

立ちあげ当初はコアメンバー5名でのスタートでしたが、現在は総勢60名のスタッフが志を共にしています。コアメンバーのうち3名は辞職しましたが、初期メンバーが辞めるのは伸びている証拠だと良雪先生。

そう考える理由は二つ。一つは開業時は採用優先となり人材としてじっくり吟味することなく「たまたまタイミングが合った人」が採用されがちであること、もう一つは経験を積み経営者としてレベルが上がった状態で採用した優秀なスタッフと初期メンバーとの間に能力差がある場合、プライドから成長が止まれば目指す道も異なり一緒に歩めなくなるというものでした。これは、一般企業にも通じるものがあるように思います。

いおうじ応急クリニックの魅力は、介護士、ケアマネージャー、栄養士、事務、看護師、医師全員が一丸となり、利用者のために必要な介護・医療を迅速に提供できる環境を整えていることです。

地域の連携してネットワークを紡ぎながら、みんなで「一人ひとりの当たり前の幸せ」を地域で、在宅で、支えていくそんな「最期まで笑顔で生きられる街」を創るために、今日も良雪先生はニーズに耳を傾け続けています。

いおうじ応急クリニック

法 人 名 医療法人 医王寺会
施 設 名 いおうじ応急クリニック
所 在 地 〒515-0044 三重県松阪市久保町1925
T E L 0598-31-3480
院  長  良雪 雅
診療科目 外来診療、訪問診療、訪問看護 

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